日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」 vol.8

 Vol.8 Theme : 「ロックの殿堂、いやパンクの殿堂入り

 

 今年も<ロックンロール・ホール・オブ・フェイム>、いわゆる<ロックの殿堂>の式典が華々しく行われ、ビートルズだったリンゴ・スターグリーンデイらが殿堂入りを果たしましたが……そもそも「ロックの殿堂って何?」って方も多いかと思います。

 アメリカはクリーブランド州にあるロック博物館がその正体で、1950年代に現地の人気DJアラン・フリードが、自身のラジオ番組で積極的にロックンロールをオンエアして人気が全国的に、大爆発したことから、かの地に作られたロック全般の記念品や貴重品を展示する、ロック好きにはたまらない場所、それが<ロックの殿堂>なのです。1986年から殿堂入りするアーティストを招いてのコンサート・シリーズを開催しており、先日のリンゴやグリーンデイもそこでパフォーマンスを披露したわけです。

 野球と違い「デビューから25年が経過している」ことがロック殿堂入りの条件で、自然と近年のアーティストはなかなか名前を連ねられないのですが、グリーンデイがもう25年も活動しているのがまずビックリ! そして彼らが受賞出来るなら、元祖PUNKバンドのセックス・ピストルズはどうなんだ? と思ったら、ピストルズは2006年に殿堂入りを蹴っていました……彼ららしいPUNX魂ですw!

 そんなPUNKの起源はピストルズ、ひいてはイギリスのロンドン発信と思われがちですが……そもそも彼らのマネージャーだったマルコム・マクラーレン(ヴィヴィアン・ウェストウッドと共にPUNKファッションも広めた)が、アメリカ滞在中に見初めたあるアーティストのファッション……ビリビリのシャツに、ツンツンのヘアスタイルでLIVEしていたのを観て、それをピストルズに取り入れさせた……というのが定説です。そう、つまりPUNKはそもそもアメリカ発。

 そのアーティストこそリチャード・ヘルで、名前からしてPUNXな彼は、元々ニューヨークにてテレヴィジョンというアートROCKバンドをやっていたものの、サウンドが知的過ぎてメンバーと衝突。脱退後は元ニューヨーク・ドールズのメンバーによる新バンド、ハートブレイカーズ(このバンドのマネージャーがマルコムだった)に加入するも、またもや衝突して脱退……遂に自身のバンド、リチャード・ヘル&ザ・ヴォイドイズを結成し、遂に悲願の1stアルバムにして大傑作『ブランク・ジェネレーション』を1977年に発表します。

 決してテクニシャン揃いとは言えないラフな演奏、投げやりで退廃的な歌詞や歌い方は、逆説的に当時の空気を反映し(ニクソン大統領による一大汚職ウォーターゲート事件の余波で、保守的な政治に懐疑的だった)、アルバムのタイトル・トラックでもある「ブランク・ジェネレーション」=「うつろな世代」はシラけきった若者達の声を代弁。ヘルは一躍アンダーグラウンドの寵児となったのです。しかも音楽理論を踏まえなかったおかげで、逆にモダンなロックの手本となったロバート・クワインのギターも秀逸で、M-1「ラヴ・カムズ・イン・スパーツ」での不協和音ギリギリのところでドライブするロックンロールは、ヘルのツンツンなヘア+ビリビリのシャツと共に、その後のPUNKに大きなインパクトを与えました。

 しかし歴史とは残酷なもので、同年イギリスで一大センセーションを巻き起こしたピストルズの陰に隠れ、ヴォイドイズのアルバムは商業的な成功を得ることは出来ませんでした……その後ドラマーがラモーンズに引き抜かれたり、ヘル自身もドラッグに溺れるなど活動は滞り、PUNKの波がすっかり落ち着いた82年に2ndアルバムを出すも殆どのメディアがこれを黙殺……結果、彼は不定期にソロ作を発表するものの、現在では文筆家、詩人としての活動の方がメインになっています。リチャード・ヘルこそ、ロックの殿堂入りしてもおかしくない偉大なアーティストですが、PUNXな彼もきっとそのオファーを断るでしょう……誰かPUNKの殿堂を作ってくれないかな?

 

Richard Hell and the Voidoids
Blank Generation

 


 
 
【日高央 プロフィール】
 
ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。